K夫妻のその後。6

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こりゃもう交番に連れていくしかないな。
そう思いながら僕は入りやすそうな交番を探します。

とりあえず筒井交番に車を走らせました。
交番と反対側の車線に車を停め、交番の中を観察します。

またしても若い男性がいます。
警察官となにやら立ち話をしています。

警察官のうちの1人がこちらに目を向けています。
どうみても不審者だよな。

ここもだめだ。
私は車を発進しました。

この間、奥様はずっと嫁の悪口を言っています。
なんでこんなことするんだとか。
嫁を家からだすだとか。
まったく迷惑かけたことないのにとか。
60にもなる女が仕事で出張ってどうゆうことだとか。
私は嫁に仕事の話は一切聞いたことがないとか。

本当はお嫁さんはまったく悪くなく、ご夫婦のためを思って
したことなのですが、当の本人たちが認知症だということに気づいていないので
話がややこしくなってしまうのです。

奥様は「おじいちゃんは最近物忘れが進んでいる」と言います。
「私も少し物忘れがある」と。

いやいや、物忘れどころか1分前のことも忘れてしまう。
重度の認知症なのです。
お嫁さんはよくこのお二人を(まして仕事をしながら)診ていたものです。

私は郊外にある交番に車を走らせることにしました。
郊外の交番なら暇だろうと思ったからです。
暇な交番ならこの二人の相手も優しくしてくれるだろうと。
いざとなったら私の名刺を出せばいいと。

空港の方へ向かって車を走らせます。
交番はすぐにみつかりました。
ところが真っ暗です。

パトカーの横に車を停めて私は言いました。
私 「〇〇さん。交番ももうしまってるよ」
奥様「あら~」
私 「パトカーはあるけども・・・」
奥様「あら~」
私 「もう夜11時になるよ」
奥様「あ~」
(かなり疲れてきています)
私 「今日はうちに泊まっていってよ」
奥様「そうだね~。そうさせていただこうかしら」

今度は確信に満ちています。
今晩はこれで終わりだ。
時刻は夜11時前です。

私は再度グループホームに向かって車を走らせます。
さっきグループホームに行ってからまだ30分ほどしかたっていません。

今度はもう「帰るよ」とはLINEしません。
あの二人のスタッフに寒い思いをさせてまで、
外で待たせる必要はもうないからです。

END


K夫妻のその後。5

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帰宅欲求の強いK夫妻。家はカギがかかっていて入れない。
奥様はジャスコのカギ屋に頼んで開けてもらえばいいと言い出します。
ジャスコのカギ屋に行ったら出張はしていないと断られました。
しかたなく近所の中華料理屋で嫁の帰りを待つことに。
その後、嫁の職場まで行きますが、出張中だと嘘をついたところ、、
奥様に違うカギ屋に行けと言われる。
カギの〇谷に行くが既に閉まっている。
じゃあ交番に行ってくださいと言われる。
南交番に行ってくださいと・・・

南交番に車を走らせたところ、交番の目の前の交差点の信号が赤で停まります。
奥様たちの目にはまだ交番が入っていません。
僕の目にははっきりと交番が入っています。

交番には先客がいました。
若い男性でした。
なにやら立ち話をしています。

警察官はそれなりに忙しそうです。
ここでこの夫婦を交番に連れていき、
「家のカギをなくしたので開けてください」などと
お巡りさんに言わせるわけにはいきません。

たぶん、僕が白い眼でみられます。
警官が言う言葉は想像がつきます。
「そうゆうことは鍵屋に頼んでください」です。
そこで奥さんが言う言葉も想像がつきます。
「じゃあカギ屋を紹介してください」です。

ここで警官がまた僕に白い眼を向けることでしょう。
あーいやだいやだ。

僕は、南交番の前を素通りしました。
どうしたものかと思いながら車を走らせていると、
奥様が突然言い出しました。
この前泊まった旅館みたいなところ(のじり苑のことです)にまた泊まろうかしらと。
けっこう居心地がよかったような気がする。と。

チャンス!!
間髪を入れずに、
「そうでしょ。今日も泊まろうよ」と言います。
「明日になれば、嫁も迎えにくるんだから」(嘘です)

奥様「そうしようかしら」

とうとうこの時が来ました。
僕は会社で待機しているひとみさんに「帰るよ」とLINEし、
会社に車を向かわせます。

ほどなくしてグループホームのじり苑に到着
男性スタッフとひとみさんが玄関前で待機しています。

どうやら旅館のドアボーイたちを演出しているようです。
奥様「ここどこ?」
私 「旅館ですよ」
奥様「いや、いや、私帰りたいの!!」
私 「・・・・」

あらららら・・・
たったの5分で言うことが変わってしまいます。

ドアボーイにふんした男性職員がなんとか説得を試みるも、
奥様は車を降りないと言う。

僕はあきらめて、また車を出します。

なんということでしょう。。。。

続く。


K夫妻のその後。4

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帰宅欲求の強いK夫妻。
奥様はカギがかかっていて家に入れないのならジャスコのカギ屋に頼んで
開けてもらえばいいと言い出します。
ジャスコのカギ屋に行ったら出張はしていないと断られました。
しかたなく近所の中華料理屋で嫁の帰りを待つことに。
その後、嫁の職場まで行きますが、出張中だと嘘をついたところ、、
奥様に違うカギ屋に行けと言われる。

車を走らせ、市内でも有名なカギの〇谷に行きます。
時間は既に夜10時も目前。

当然店はしまっています。
私は店の前に車を停めて奥様に言いました。

「〇〇さん。カギ屋ももう閉まってるみたいだよ」
「明日何時に開くか見てくるね」

車を降りて営業時間がどこかに書いてあるだろうと
探してみたのですが、どこにも書いてありません。
車に戻り奥様に言いました。

私 「〇〇さん。明日10時に開くって。今日はもう帰ろう。うちに泊まって」

奥様「じゃあ交番に行ってください」
「交番に行けば、こうゆう困っている人を助けてくれるはずです」

私 「・・・」

奥様「南交番に行ってください」

私 「・・・わかりました。」

南交番はすぐ近くです。
私の地元ですからすぐわかります。
南中(青森南中学校)時代によくお世話になっていたのでわかります。

あれは中一の2月のことです。
サンワドーで友達2人と万引きをして捕まりました。
2人のうちの1人がポマードを万引きしたのです。
僕たち2人はその彼の犯行が周りから見えないように左右に分かれて壁になりました。
その不審な姿は防犯ビデオにはっきりと映っていたそうです。
僕の罪は窃盗ほう助です。(まだ13歳だったので少年法で守られましたが)

3階の事務所に通されて従業員のおっちゃんに怒られました。
ポケットの中の物を全部だせと言われて出しました。

僕のポケットからはここに来る前に行ったジャスコで万引きした
シャーペンと消しゴムなどがでてきました。
友達のポケットからはたいしたものは出てきませんでした。
こいつらジャスコでは何も盗らなかったんだな。
妙に感心しました。

一瞬、俺だけが又怒られるのかとあせりました。
しかし、ここはサンワドー。ジャスコではありません。
しかも中学生がポケットにシャーペンと消しゴムを入れていても
そう違和感はありません。

しかし、新品の消しゴムがポケットからでてくるのはおかしいよな。
僕はそう思いました。
しかしそこは指摘されることはありませんでした。
そのおっちゃんの目は節穴だったのでしょう。

しかし、ぼくらは怒られました。
こっぴどく怒られました。

しかも交番に突き出されました。

うまれて初めてパトカーに乗ったあの時の記憶は、
今も鮮明に覚えています。

何でこんな30年近くも昔のことを思い出さなきゃいけないんだ。
そう思いながら僕は南交番へ車を走らせます。

なんということでしょう。。。

続く。


K夫妻のその後。3

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帰宅欲求の強いK夫妻。
奥様はカギがかかっていて家に入れないのならジャスコのカギ屋に頼んで
開けてもらえばいいと言い出します。
ジャスコのカギ屋に行ったら出張はしていないと断られました。
しかたなく近所の中華料理屋で嫁の帰りを待つことに。

果たして、嫁は帰ってくるのか・・・・

いや、嫁は既に帰ってきてるんです。
お2人のご自宅は電気が煌々とついているのです。

彼らの目にはそれが見えていないか、見えていたとしても
すぐに忘れてしまうのです。

中華料理屋でラーメンを食べ終えた私どもは再度ご自宅に行き、
嫁が帰ってきてるかどうかの確認をします。

いつものように、家を過ぎた辺りで車を停め、カギがかかっているかどうか
確認してくるねとお二人に伝え、車を降り、確認したふりをして
車に乗り込み、カギがかかっていたと伝えます。
(そろそろ近所の人に不審者がいると通報されるでしょう)

じゃあ〇〇子の勤め先に行けばいいじゃないと奥様が言い出します。

おいおい、嫁の勤め先は天下の〇TV(テレビ局)だぞ。
私の心の声は彼らに届くことはありません。

「かしこまりました」
「〇TVへ向かいます」
「〇TVへは10分もあれば着きます」

車を走らせながら私は思いました。
あれ!?〇TVってどこだっけ?
とりあえず知ってるテレビ局へ車を走らせ、すぐに到着。

しかしそこはRAB(別のテレビ局)でした。
お二人に謝り、すぐ近くの〇TVのテレビ塔を目指します。

すぐに〇TVに到着。しかし電気が消えています。
裏のほうに周ってみると電気がついていました。
職員用の出入口です。

どうも入りにくい雰囲気です。
どう考えたって夜警さんがいる雰囲気です。

私はちょっと尻込みをしました。
奥さんは早く行って嫁からカギをもらって来いと私にいいたげな雰囲気です。

私はとっさに言いました。
「そう言えば〇〇子さん、出張に行くって言ってたな~」

「そんな。出張に行くなら前もって言うはずだ。んなわけない」と奥様。

〇〇子に電話しろと奥様に言われたので、会社で待機しているひとみさんに電話をします。

「あ、〇〇さん?〇〇さんどこに出張だったけ?」

奥様が電話を代われと言うので、代わります。
ほどなくして電話を切った奥様に聞いてみました。

〇〇子さん、どこに出張だって?

奥様「盛岡だど(笑)」

ばかひとみが!なんでよりによって盛岡なんだ。
車で行ける距離じゃねーか。
と思いつつ、奥さんに聞いてみました。

「じゃあどうしますか?今日はうちに泊まればいいですよ」

奥様は言います。
「私は人の家では寝れないの。自分のうちじゃないと寝れないの」

私「・・・」(既にうちに3週間以上泊まっていますが)と思いつつ。

奥様「〇〇子さんが嘘をついてどこで何をしてようと私には関係ないの。」(嘘だとばれています)
奥様「私はとにかく家に帰りたいの。警察に行ってちょうだい」

私「・・・え~警察!?」

奥様「交番に行ってちょうだい」
私 「交番に行ってどうするんですか?」
奥様「鍵をあけてもらう」
私 「交番に行ったってカギは開けてくれませんよ」
奥様「じゃあカギ屋を紹介してもらう」
私 「さっきジャスコのカギ屋に行ったじゃないですか」
「出張できないって言われたじゃないですか」
奥様「だから出張してくれるカギ屋を交番に行って紹介してもらうの」
私 「・・・」(墓穴を掘りました)

「かしこまりました」
「カギ屋なら交番へ行かなくても私が紹介できます。違うカギ屋へ行きます。」

時刻は夜9時半を回っています。
なんということでしょう。。。。

続く。


K夫妻のその後。2

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帰宅欲求の強いK夫婦。
家のカギが開いていないので合鍵を作ろうとジャスコのカギ屋さんへ行くも
出張はしていないと断られてしまう。。。
とりあえずトイレに行った奥様。

奥様がトイレを出て来たので、来た道を戻ろうとすると、
目の前に今度はアイスクリーム屋さんがありました。

私 「アイスクリーム食べる?」
奥さま「食べようか」
奥さま「でも、わたしお金もってないの」
私 「私が持ってるから大丈夫ですよ」
奥さま「あら、悪いわねぇ。あとで〇〇子さん(嫁の名前)からもらってちょうだい」
私 「わかりました」

キッズサイズを2つ頼み、ベンチで休むことにしました。

奥さん「ところであなたの名刺もらったっけ?」
私 「はい。先ほど渡しました」

噴水の前
私の名刺を確認する奥さん

アイスを食べ終わり、少し休んだところで車へ戻ることにしました。

そして再度ご自宅へ帰る。と言われたのでご自宅へ行きます。
家を過ぎた辺りで車を停め、カギがかかってるかどうか確認して来ますねと
車を降り、確認したふりをして車に乗り「鍵がかかってた」と伝えます。

そしたら、今度は、
広州やってるかしら?広州で嫁が帰ってくるのを待ってる。
と奥様が言い出しました。
広州とは近所の中華料理屋のことです。
私のおすすめは担々麺です。

私 「〇〇さん、なんか食べるの?」
奥さま「わたし中華そば食べる」
奥さま「でも、わたしお金もってないの」
私 「私が持ってるから大丈夫ですよ」
奥さま「あら、悪いわねぇ。あとで〇〇子さん(嫁の名前)からもらってちょうだい」
私 「わかりました」

なんということでしょう。。。
ちなみに二人とも2、3時間前に晩御飯を食べています。

しかも、奥様はジャスコでジュースを飲んでアイスも食べています。
まぁお腹一杯になって残してしまってもいいか!

ということで、さっそく

広州1

 

 

旦那様は何も食べません。
酒をすすめましたが、酒も飲みません。
そうとう腰が痛そうです。

奥様はペロッとラーメンを食べ終わりました。
ちなみに私もいつも担々麺しか食べていなかったので
同じものを頼んで食べてみました。
うまかったです。

ちなみに私も晩御飯を1時間前に食べていました。
そして奥様と一緒にジャスコでジュースを飲んでアイスを食べて、
今広州でこうしてラーメンを食べています。

やせるわけがありません。

なんということでしょう。。。

続く。


K夫妻のその後。1

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みなさん、こんにちは。
久しぶりの野球で筋肉痛の鈴木です。

おとといの夜勤の日のことです。
夕方6時半頃でしょうか。

K御夫妻の帰宅欲求がまた高まってしまいました。
女性職員が車で乗せていくと言っても、
「あなたではダメだ」と一蹴されます。
タクシーを呼んでくれと。
そして、暑いから外で待っていると外に出てしまいました。

仕方がないので、本来は夜勤で現場にいなくてはいけないはずの私が
車を出すことにしました。
ひとみさんにとりあえず夜勤業務を代わってもらいます。

タクシーのふりをして工藤御夫妻の前に車をつけます。
お二人を乗せてさっそく自宅へ。
自宅を通り越したところで車を停め、
カギが開いてるかどうか確認してくるね。と
車を降ります。

確認したふりをして、再度車に乗り込み、
「鍵がかかってた」と言います。

じゃあ「ジャスコの合鍵屋に行ってください」と奥様。
かしこまりました。と私。

すぐ近くのジャスコ(イオン)へ行きます。

ジャスコに入るりうさんジャスコへ到着した奥さん

腰が悪いため歩くのが遅い旦那さんを私にまかせて足早に歩きます。

旦那さんは入口にたどり着くのもやっとで、もう腰が痛いからダメだと言い出しました。
入口のすぐそばにあったジュース屋さんの前のベンチで休みます。
そしておいしいジュースを飲みました。

りうさんが車いすを借りに行くと言い出したので、私が代わりに車いすを借りに行きました。
帰ってきてみると、ベンチに奥さんがいません。
少し慌てましたが、すぐに発見しました。

 

どうやら鍵屋さんへの道を尋ねているようです。
旦那さんは本当に腰が痛そうです。

カギ屋さんへの道のりはまだ遠いです。
旦那さんを車いすに乗せて歩き出します。

途中で時計屋を発見したので奥さんに革バンドを直してもらったら
と促します。
奥さんの時計の革バンドが少し壊れていたのです。

その時計屋は修理はしていないのか、新しい革バンドを4つみせられました。
値段は4000円くらい。
お金を持っていない奥さんはすぐにあきらめました。

そして再度カギ屋さんへと歩を進めます。

カギやにはいるりうさん

とうとう鍵屋さんに到着しました。

ところが、、、
「うちは出張はしてないよ」と店主に一蹴されてしまいました。

あきらめの早い奥さんは、来た道を戻り始めます。
そしてトイレに行きたいと言い出しました。

ちょうど目の前にトイレがありました。

トイレに入るりうさん
トイレに入る奥さん

それを待つ旦那さん
それを待つ旦那さん

なんということでしょう。。。

続く。。。


久しぶりの日勤です。10

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ここら辺で一息入れて、話を脇道にそらさせてください。
久しぶりの日勤です。についてブログを書いていたら、
お昼までのところでNO.10にもなってしまって、疲れてきました。

今回は業界の内情をみなさんにお伝えしておきたいと思います。

今度うちに入る新しい利用者さんは他社が経営している住宅型有料老人ホームに現在入居されています。
そこを退去してうちのグループホームに入るにはもちろんわけがあります。

この方には担当のケアマネージャーさんがついています。
この方のご家族はケアマネージャーさんに相談したんです。

今入っているところ(施設)は何もしてくれない。って。
何もしてくれないといっても本当に何もしてくれないわけではありません。
食事は提供してくれますし、寝床(個室)も用意してくれています。

必要なら訪問介護サービスを使って入浴も通院も掃除も買い物も手伝ってくれます。
でも、でも、それだけなのです。

え?
それだけで充分だろ。って?

いやいや、この方は認知症なのです。
(ちなみに認知症でない方はグループホームには入れません)
認知症の方にはもっと多種多様なケアが必要なのです。

同じ要介護高齢者でも認知症がある方とない方では決定的な違いがあります。
誤解を恐れずにそれを一言で言いきります。

それは、
認知症の方は不安が強い(もちろん全ての方がというわけではありません)
ということです。

そりゃそうですよね~
たった30秒前に起きたことを忘れてしまうんですもの。

想像してみてください。
自分がもしそのような立場に置かれたらどうなるか?
精神を保つことができるか?
己の存在、自己存在を確立できるか?

怖いですね~
恐ろしいですよね~

だからこそその不安を払拭する作業が必要なのです。
訪問介護サービスだけではそれができません。
主に必要な最低限度の介護サービスを想定して制度設計されているからです。

このようなことを踏まえて先ほどの新しい入居者さんのご家族の声を解釈してみましょう。

「今いるところ(施設)は何もしてくれない」

これは介護サービスはしてくれるけど、認知症の利用者さんに対する心のケアまではしてくれない。
ということを表しています。

そこでこの担当ケアマネさんは考えました。
「そうだ!グループホームにしよう!」

ナイスアイディアです。

「グループホームといえばのじり苑だ」

たいていのケアマネさんはつきあいのあるひいきにしている施設があります。

「のじり苑に電話してみよう」

プルルル・・・プルルル・・・

「はい。のじり苑です」

その電話にでたのはたまたま私でした。
(ちなみに普段私は電話にでることはありません。たまたまです。夜遅かったのです)

「〇〇(ケアマネ事業所の名前)の〇田です。今そちらは空いてますか?」

「空いてます」と私。

「すぐに入れますか?」と担当ケアマネ

「はい。入れます」と私(本心は人手不足で大変なんだけど、ま、いざとなれば自分の休みを削ればなんとかなるか)

「一度、見学に行ってもいいですか?」と担当ケアマネ

「はい。どうぞ」と私。

なんということでしょう。。。
このケアマネさんは新米だったのです。いや、新人ケアマネだったのです。

なぜ彼女がうちに電話してきたのかは知りません。
聞いてもいません。

その事業所とは古くからのつきあいなので、きっと周りの同僚ケアマネからでも
うちの評判を聞いたのでしょう。

後日、その新米ケアマネさんはうちに見学にいらしたそうです。
私は不在だったためお会いしていません。

そして、無事にうちを気に入ってくださり、この利用者さんを紹介してくれました。
この利用者さんは強い徘徊癖があるそうです。
勝手に他の利用者さんの部屋に入って寝ていたり、テレビを見ていたりして度々クレームがあがるそうです。
今いる施設ではそれに対応できていない。

いや、そもそも対応するつもりもない。
そりゃそうでしょう。
人手が足りないんですから。
金にもならない仕事をわざわざする必要もない。

うちは違います。
金にならなくてもやるときは自腹を切ってでもやるし、
人手が足りないんだったら入居者数を減らします。

事故で入居者さんの命を落としたりしたらそれこそ大変じゃないですか。
テレビで謝罪会見しなきゃいけなくなるんですよ。

恥です。

日本は恥の文化です。

何を書きたいのかわからなくなってきました。

要は恥をとるか金をとるか。

いや、プライドをとるか恥をかくか。か・・・

いや、信用をとるか金をとるか。か?

まぁ、どっちでもいいや。

美意識の問題でしょ。
美意識の!!

眠くなってきました。

続く。。。


久しぶりの日勤です。9

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前回までのあらすじ・・・

朝からサタさんにつかまり、
新しい入居者さんが入る居室のチェックを終え、
キヨエさんにつかまるも事務仕事をいくつか終え、
福祉タクシー事業の担当者と打ち合わせをし、
またキヨエさんにつかまるも、
とうとう現場にたどりつき、二郎さんと将棋。
その後昼飯。そして往診。

時刻は昼の12時半。

やっとばたばたとした午前中も終わり、緩やかな午後が始まります。
部屋に入って昼寝をする利用者もいるため、職員も順番にお昼休みを取ります。

私は基本的にはというか、まったく昼休みというものを取りません。
休むほど働いていないからです。

リビングが静かになり、場が静けさを持ったころ、
それを打ち破る音楽をばかひとみがかけました。

演歌です。
年寄りは皆演歌が好きだと思っているのです。
まったく画一的なケアです。
私はこうゆうのが大嫌いなのです。

私はその音がはやくやめと思っていたら電話が鳴りました。
電話をでるためにばかひとみは音楽のボリュームを下げました。

そしてそのボリュームが上がることは二度とありませんでした。
たぶん忘れているのでしょう。

静けさを取り戻した私は、新しく入る入居者さんのフェイスシートに
目を通すことにしました。

フェイスシートとは、利用者さんの「氏名、年齢、性別、家族構成、健康状態」など、
基本データをまとめた用紙のことです。
「この利用者さんはどんな人か」を知る書類です。

事細かに趣味や生い立ち、生活歴、習慣、身体的特徴なども書かれています。
どこまで身体介護が必要か、徘徊はあるか、トイレは自分で行けるのか、
食事の好みは?などなど

隅から隅まで一字一句目を通せば、その人となりがそれなりにイメージできます。

その新しくうちに入る利用者さんは現在他の会社がやっている
住宅型有料老人ホームに入居されています。

住宅型有料老人ホームは介護保険施設ではないので、介護サービスを提供する義務はなく、
介護が必要な方には訪問介護サービスを利用させることが一般的です。
そのために必要なケアプランを担当のケアマネージャーが毎月作っています。

ここらへんは制度のひずみというか、一般の方々が理解に苦しむところです。

介護施設は約10種類もあるのです。

え~!?

という声が聞こえそうです。

何が違うの?って?

ほとんど違いはありません。

続く。


久しぶりの日勤です。8

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前回までのあらすじ・・・

朝からサタさんにつかまり、
新しい入居者さんが入る居室のチェックを終え、
キヨエさんにつかまるも事務仕事をいくつか終え、
福祉タクシー事業の担当者と打ち合わせをし、
またキヨエさんにつかまるも、
とうとう現場にたどりつき、二郎さんと将棋。
1時間を超える熱戦の末、勝負を終えた私。
ふと我に返り、往診の先生がまだ来てないことに気づく。
その一方でサタさんが薬がないと訴え始めている。
その薬を買いに行くと決めた我々。
昼飯を食べ始める我々。
そこに玄関のチャイムがなる・・・

「ピンポーン」

「あ!やっと来た!!」

つい大きい声をだしてしまう私。

下を向きながら入ってくる先生。

「ご苦労様で~す」

スリッパを準備しにかかる我々。

さっそく往診の始まりです。

ひとみさんは往診の先生と看護師と一緒にひとりひとりの利用者さんに付き添います。
あのばかひとみの目つきが一瞬に介護職人のするどい目に変わります。

私とサタさんは気にせずに黙々と焼きそばをたいらげます。
蛯名さん(調理師)が私に温めたスープを持ってきてくれました。
(私のお盆にはおにぎりだけでなくスープもなかったのです)

「ありがとう」

サタさんのスープはもうきっと冷めています。

介護職人のひとみさんは昼飯も食べずに往診に付き添っています。

それを横目にみながら、私はあっという間に昼飯を食べ終わります。
そして、既に食べ終わっている利用者様の食事摂取量をチェックし始めました。

食事摂取量のチェックとは、
主食、副食、汁物、飲み物(お茶)を各利用者さんたちがどの程度食したかを
100%を完食として細かく記録に残していくことです。

これを記録しておくことにより24時間で利用者様がどのくらいの水分を補給しているかの
確認ができます。

水分摂取量は一日1000CCを超えるように気を配ります。
夏も近づいているので、脱水症状が起きないように水分摂取量は特に注意が必要です。

一通りの方の往診が終わり、とうとうサタさんのところに先生が来てくれました。
サタさんはまだ食事中です。
看護師がバイタルを計り、先生が聴診器で彼女の体内の音を聞きます。

サタさん「ふつうですか?」

 先生 「はい。ふつうですね。元気です」

サタさん「先生の病院にいつでも行くがらな」

 先生 「来なくても大丈夫ですよ」

サタさん「・・・」

 先生 「元気なうちは来なくてもいいです。悪くなったら来てください」

サタさん「あ~」

あっという間の往診でした。

先生がいなくなってからご飯の続きをし始めたサタさんが言いました。

「あの医者、どごの病院の医者だ」

私「・・・」
サタさんの隣で食事をしていた男性職員が言いました。
「〇〇病院だよ!」

サタさん「〇〇病院?」「なんだそれ?」

なんということでしょう。。。

時刻は昼の12時半です。

続く。


久しぶりの日勤です。7

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前回までのあらすじ・・・

朝からサタさんにつかまり、
新しい入居者さんが入る居室のチェックを終え、
キヨエさんにつかまるも事務仕事をいくつか終え、
福祉タクシー事業の担当者と打ち合わせをし、
またキヨエさんにつかまるも、
とうとう現場にたどりつき、二郎さんと将棋。
1時間を超える熱戦の末、勝負を終えた私。
ふと我に返り、往診の先生がまだ来てないことに気づく。

時刻は11時40分
ふと気づいたら目の前でひとみさんが電話をしています。
話している内容から推測するに、往診がまだ来てないんだけどと病院に
電話をしているようです。

おいおい、いらぬことをするなぜよ。
あっちは天下の大病院ぜよ?
天下の医者様だぜ?

私の心の声など届かぬ彼女は電話を切るなり私に言いました。
「前のところが押していて遅れているそうです」

・・・んなこと聞かんでもわかるわい。
心の中でそう思いながらも、私は「あ~」とだけ発し、
昼飯を食うことにしました。
と思ったら、まだ準備ができていませんでした。

私の隣にはなぜかサタさんがいました。
朝の薬の件の説明を私に話しにきてくれたようです。(1話参照)
なにやらまだ問題が解決してなかったようなのです。

ひとみさんが私に言いました。
「須郷さんに薬を買いに行ってもらいます」(須郷さんは運転手兼用務員です)
続けてひとみさんが私に言いました。
「このサタさんの状態のままじゃ夜勤者が大変になってしまい、かわいそうなので」

彼女が言いたいことはこうゆうことです。
サタさんは朝から漢方薬がないと職員たちに訴えている。
もう昼だ。あれから3時間以上たつ。
サタさんはその薬にとても強い執着と愛着をもっていらっしゃるので
この訴えはたぶん夜まで続くだろう。
今は昼間だからスタッフが大勢いてこのサタさんの訴えを聞いていられるが、
夜は夜勤者一人になる。夜勤者は一人でやらなきゃいけないことがたくさんあるので
サタさん一人にかまっていられない。
このままではサタさんは夜も寝ないで訴え続けるかもしれない。
ならば今のうちにサタさんが求めているその薬を用意すればいい。
ということなのです。

なんてやさしいのでしょう。。。
私は「うん。うん。」とその意見に同意しました。

時刻は12時をまわりました。
私はサタさんの隣で昼食の焼きそばを食べ始めました。
サタさんも焼きそばとおにぎりを食べていました。
サタさんは言いました。
「このおにぎりうめぇな」
その小さな独り言は、近くにいた蛯名さん(調理員)にたぶん届きました。

私も言おうとしました。「おにぎりおいしい?」
しかし、その言葉は発せずに飲み込みました。
なぜならサタさんは耳がかなり遠いので、どうせ聞こえないだろうと思ったからです。

そして、私もおにぎりを食べようと思ったら、
私のお盆にはおにぎりがありませんでした。
「あ~、利用者にだけおにぎりがつくんだ~」

近くにいた職員が気を聞かせて言いました。
「おにぎり持ってきますか?」

私は言いました。
「いや、いらない」
サタさんがせっかくおいしいと言ってくれたおにぎりを
もし私が食べて、おいしいと言えなかったら、
蛯名さんに申し訳ないと思ったからです。

時刻は12時10分

玄関のチャイムがなりました。

続く。。。。